下肢静脈瘤治療法

◆下肢静脈瘤の原因

下肢静脈瘤は、ふくらはぎの静脈が拡張し、むくみ、重苦しさ、こむら返りに悩まされたり、皮膚の色が黒ずんだり、皮膚に潰瘍を作ったりする病気です。 ふくらはぎの静脈の拡張が目立ちますが、実はその原因は、太ももの内側にある『大伏在静脈』や、ふくらはぎの裏側にある『小伏在静脈』であることがほとんどです。 これらの静脈を流れる血液は重力にさからって心臓に戻ってゆくのですが、逆流を防ぐためにたくさんの弁があります。この弁が何らかの原因で壊れると本来は心臓に向かう血液が逆流し、足先に向かって流れてしまいます。そのため、ふくらはぎの静脈が拡張し、上に挙げたような症状がおきてしまいます。

◆下肢静脈瘤の治療の基本

したがって下肢静脈瘤の治療の基本は、逆流してしまっている『大伏在静脈』や『小伏在静脈』の逆流を止めてしまうことです。これらの静脈を完全に閉塞させても、あるいは手術で切除しても、足には他にも太い静脈があるので、足全体の静脈の流れに悪い影響はありません。
ふくらはぎの静脈の拡張が目立ちますが、そこだけを切除しても、『大伏在静脈』や『小伏在静脈』の逆流が残っていると、むくみなどの症状は改善しませんし、ふくらはぎの静脈もまた拡張してしまいます。

  • 血管内レーザー治療法(EVLT)
  • 硬化療法
  • 高位結紮術
  • 血管内レーザー治療(1470nm)
  • 保険血管内レーザー治療(980nm)
  • ストリッピング手術

血管内レーザー治療法(EVLT)について

下肢静脈瘤の血管内レーザー治療は、『大伏在静脈』や『小伏在静脈』にボールペンの芯くらいの細いカテーテルという管を入れて、血管の中からレーザーを照射して血管を閉塞させてしまう方法です。
まず、ふとももやふくらはぎの血管の位置をサインペンでマークします。極めて細い針で局所麻酔をし、針を使ってカテーテルを血管に入れます。カテーテルの太さは1mm以下ですから術後に傷はまったく残りません。
カテーテルが入ったら、その中にレーザーファイバーを入れて、血管の周りを細い針で局所麻酔し、レーザー照射を行います。レーザー照射中に痛みや熱さを感じることはありません。レーザー照射自体は2分程度で終了します。全体の治療時間も片足20分程度です。

治療後に弾性ストッキングをはきます。弾性ストッキングは、最初の1週間は一日中、次の1週間は昼間だけはいてもらうのが基本です。治療後は普通に歩行してご帰宅していただけます。もちろん普通の生活が可能です。シャワーは翌日から、入浴は3日後から可能です。

◆経過観察について

1週間くらい後に診察と超音波検査を行います。

◆血管内レーザー治療法(EVLT)の治療中、治療後に起こりうる合併症などについて

麻酔は局所麻酔ですが、極めてまれに麻酔薬に対するアレルギー反応が起き、重篤な場合には救急処置が必要な場合もあります。
治療後に、軽い痛みが当日、または数日後に起こる場合があります。そのため頓用の痛み止め(商品名:ロキソニン)をお渡しします。
治療した血管に沿って内出血が生じる場合があります。また血管に沿って引きつれたような感じが起こることがあります。血管が閉塞している証拠でもありますので、ご心配ありません。どちらも1ヶ月程度で自然に消失します。
ふくらはぎの静脈瘤に血栓(血の塊)が出来る場合があります(可能性は5%程度です)。特に問題にはなりませんが、当クリニックでは予防のために弾性ストッキングをはいていただき、また、少し血液をさらさらにするお薬(商品名:バイアスピリン)を7日間服用します。薬にアレルギーのある方、すでに血液をさらさらにするお薬をお飲みの方はお申し出ください。ふくらはぎの血栓の範囲があまりに大きい場合には、血栓を溶かす薬(商品名:ワーファリン)を服用していただく場合がございます(可能性は1%程度です)。この場合は別途に薬代、血液検査費等がかかりますことをご了承ください。
きわめてまれに、治療した静脈から血栓が足の静脈本管内に大きく発達してしまうことがあるといわれています(可能性は0.1%以下です)。弾性ストッキングの着用とバイアスピリンの服用はその予防効果もあります。経過観察中に明確に診断できますし、万が一そうした状態が生じた場合には日本医科大学等の連携病院にて診療いたしますのでご安心ください。
他にやけど(皮膚の壊死)や神経障害などが報告されています(自身での経験はありません)。

血管内レーザー治療のご紹介(1470nm)

血管内レーザー治療

「血管内レーザー治療」は、従来の血管を引き抜く治療(ストリッピング治療)をに変わる治療法のひとつで、太さ約1ミリのカテーテルを血管に通し、内部からレーザーを照射して逆流した血管を閉じます。
手術時間は片足約20分、出血が少なく、手術後の傷は目立ちにくい小さな傷で済みます。
入院の必要もなく、手術直後から普段通りの生活が可能な為、女性にもお勧めです。

硬化療法について

硬化療法は、静脈瘤が小さい場合、静脈瘤の原因血管が細い場合、血管内レーザー治療やストリッピング手術後に残存する静脈瘤などに用いられます。
静脈瘤にポリドカスクレロールという硬化剤を注入して、拡張した静脈を小さく固めて硬化させる方法です。静脈瘤の大きさや形態によって、薬剤の濃度や量、治療の回数が変わってきます。
硬化療法の手順は、細い針を用いて薬剤を静脈瘤内に注入し、上からガーゼをあてがい、弾性包帯または弾性ストッキングを着用し圧迫して終了します。施術時間は10分程度で、もちろん入院の必要は無く、歩いて帰宅が可能です。入浴は治療当日から可能ですが、最初の2日間は1日中ガーゼと弾性包帯または弾性ストッキングを外さないでいただきます。
硬化療法は安全な方法と考えられていますが、硬化した血管がしばらくの間コリコリと触れる場合があります。また軽度の色素沈着がしばらく残ることもあります。なるべく色素沈着を残さないため、また正常な静脈までをも硬化させないため、必要最小限の濃度と量の薬剤を用います。そのため硬化する範囲が予定より小さくなったり、血管の硬化が不十分なこともあります。

血管内レーザー治療で逆流している静脈の閉塞が成功すると、むくみなどの症状はほとんど消失します。ふくらはぎの静脈瘤も縮小しますが、完全に消失させるために硬化療法を追加で行うことが出来ます。
硬化療法は血管内レーザー治療後1ヵ月半程度から開始します。ふくらはぎの静脈瘤に硬化剤を少量注射して、静脈を硬化させる方法です。
治療は10分程度で終了します。細い針で行いますので痛みもほとんどありません。もちろん外来治療です。

高位結紮術

下肢静脈瘤の原因となっている逆流血管が屈曲・蛇行している場合などには、結紮(けっさつ)術を用います。皮膚に局所麻酔を行い、1〜2cm皮膚を切開し、原因血管をしばる方法です。局所麻酔しか用いませんので、血管内レーザー治療と同様に日帰りです。
結紮後1ヶ月程度で硬化療法を追加する場合があります。

ストリッピング手術 ※四谷・血管クリニックでは行っておりません。

原因血管を手術で取り除いてしまう方法です。
太ももの内側の静脈が原因の場合には、足の付け根と膝の付近の皮膚を切開し、血管を露出して血管の中に金属製のワイヤーを通します。
そしてワイヤーと血管を絡みつけ、血管を引き抜くやり方です。
通常は4〜5日程度の入院をして行います。

ストリッピング手術では、皮膚に切開した傷が残ります。術後にある程度の痛みがあり、血管に沿って内出血が生じます。

従来の手術(ストリッピング手術)との比較

レーザー治療法 ストリッピング手術
麻酔 局所麻酔 全身麻酔または下半身麻酔
1mm、1箇所(時に2) 3〜4cm、2〜3箇所程度
術後の痛み 弱い 有り
術後の内出血 弱い 強い
成功率 99% 99%

下肢静脈瘤に対する治療法の選択

下肢静脈瘤に対する治療法の選択肢はかなりあります。それぞれに一長一短がありますので、それぞれの患者さんに一番ふさわしい治療法は何かを決めることはかなり難しく、また最終的には患者さん自身が決めるのがよいと思っています。
ただしいくつかの原則がありますので、御参考にしてください。ごく小さな蜘蛛の巣状の静脈瘤や樹枝状の静脈瘤に対する治療と、ふくらはぎに1か所だけぷくっと血管が膨れている場合の治療と、ふくらはぎや太ももの下のほうに血管が太く広範囲に浮き出ている場合の治療は異なります。

◆クモの巣状の静脈瘤や樹枝状の下肢静脈瘤に対する治療法
これらの小さな細い静脈瘤に対しては、硬化療法が最も適しています。硬化療法は、硬化剤を細い針を使って静脈瘤の中に注入します。2日間ほどガーゼ、弾性包帯、弾性ストッキングしっかり押さえて終了です。範囲が大きい場合は数回行わねばならないことがありますが、基本的に保険診療です。クモの巣のような静脈瘤に対して、直接レーザーを照射して消失させる皮膚照射レーザーという方法もありますが、自由診療(自費)です。

◆ふくらはぎに1か所だけぷくっと血管が膨れている場合の治療法
この静脈瘤に対しては、多くの場合にやはり硬化療法で治療できます。ただし、その前の超音波検査で、ぷくっと膨れた静脈の下に穿通枝というやや太い血管が隠れている場合があります。この血管が見られた場合には、表面の静脈瘤だけでなく、内部に隠れた穿通枝も閉塞させてしまった方が再発率が低くなります。穿通枝を閉塞させる方法は、皮膚を切開して直接見て結んでしまう方法、皮膚の下に内視鏡を入れて焼き切る方法などがあります。いずれも時間もかかりますし、皮膚に切開痕が残ります。新しい方法に、超音波検査を使いながら、深いところのある穿通枝にやや濃度の高い硬化剤を直接注入する方法があります。技術的にやや困難なため、あまり一般的に用いられてはいませんが、余計な皮膚の切開も必要としませんし、入浴制限などもありません。通常の硬化療法とまったく同じ感覚で穿通枝を閉塞させます。この方法は、ごく限られた施設のみ可能です。大学時代からの研究をふまえ四谷・血管クリニックでは、積極的に採用しています。

◆血管が太く広範囲に浮き出ている場合の治療法
こうした静脈瘤には必ず原因となっている逆流している血管があります。本来心臓へ戻るべき血液が、重力で下にさがってしまうのです。静脈には無数に逆流防止弁があるのですが、それがうまく働いていないのです。ふつうしっかり閉じている蛇口が壊れて、水が出っぱなしになっているようなものです。下に置いてあるバケツは水であふれます。あふれた結果がふくらはぎの静脈の拡張であり、むくみ、こむら返りであり、皮膚の色素沈着なのです。ですから治療は、逆流血管を止めてしまうことが基本です。ふくらはぎの拡張した静脈は結果的に膨れているわけですから、後で考えればよいのです。
ではどのように逆流血管を止めるか。いくつか選択肢がありますので挙げてみます。

 ・1つ目は血管を引き抜くストリッピング手術
 ・2つ目は一番上で血管を縛る高位結紮法
 ・3つ目が血管を閉塞させる血管内レーザー治療


それぞれに一長一短があります。

下肢静脈瘤に対する治療法の選択―その2

大きな静脈瘤に対する治療法は通常以下の3つから選択されます。

 ・1つ目は血管を引き抜くストリッピング手術
 ・2つ目は一番上で血管を縛る高位結紮法
 ・3つ目が血管を閉塞させる血管内レーザー治療


それぞれに一長一短があります。

◆1.ストリッピング手術
原因となっている血管を引き抜く手術です。入院して行っている場合が約80%程度で、日帰りで行っている場合が20%程度かと思われます。入院で行うにしろ日帰りで行うにしろ、手技は変わりません。大伏在静脈が原因の場合、足の付け根とひざの内側あたりに3cm程度の皮膚切開を作り、血管を露出します。血管の中に金属製のワイヤーを通し、片側をしっかり血管にくくりつけて反対側から引っ張って抜きとります。
入院の場合は全身麻酔または下半身麻酔で行います。日帰りの場合は局所麻酔で行いますが多少全身麻酔を加えます。
手術時間は1時間程度。日帰りの場合の滞在時間は約3時間程度です。
術後の痛みは中程度。術後の内出血は青紫色にかなり強く出ます。シャワーは3〜4日後位から、入浴は1週間後位からになります。自宅での静養は3日〜4日。軽い運動は1ヶ月後位から、ランニングなどは2ヶ月後位になります。皮膚切開痕は半年ほどでほぼ目立たなくなります。
手術して血管が全長にわたって抜きとれる成功率は99%程度です。 ストリッピング手術は保険診療です。3割負担の方で術前検査から経過観察まで含めて、入院で15〜17万円程度です。
※四谷・血管クリニックでは行っておりません。

◆2.血管内レーザー治療
原因となっている血管をレーザーで閉塞させる方法です。日帰りで行います。大伏在静脈が原因の場合、ひざの内側あたりに針を用いて、カテーテルというボールペンの芯位の管を入れます。カテーテルの中にレーザーファイバーを通し、大伏在静脈の中からレーザーを照射します。
麻酔は局所麻酔のみで行います。手術時間は片足20分程度で、治療直後から歩行ができますので、院内での回復時間はありません。
術後の痛みはごく軽度で鎮痛剤を服用しない方が半数以上です。術後の内出血もごく軽度におさまります。シャワーは翌日から、入浴は3日後から可能です。自宅での静養はなく、治療直後から普段の生活、お仕事が可能です。軽い運動は1週間後位から、ランニングなどは2週間後位からになります。
レーザー照射して血管が全長にわたって閉塞する成功率は99%程度です。 術前検査から経過観察まで含めて、各医療機関で異なった費用が設定されており、20〜40万円位と思われます。

◆3.高位結紮法
原因となっている血管を一番上で結んでしまう手術です。日帰りで行います。
大伏在静脈が原因の場合、足の付け根に3cm程度の皮膚切開を作り、血管を露出します。そして血管を縛ります。
麻酔は局所麻酔で行います。手術時間は1時間程度で、治療直後から歩行ができますので、院内での回復時間はありません。
術後の痛みは軽度で、術後の内出血はほとんどありません。シャワーは3日後位から、入浴は1週間後位からになります。日常生活は、治療直後から可能です。軽い運動は1ヶ月後位から、ランニングなどは2ヶ月後位になります。皮膚切開痕は半年ほどでほぼ目立たなくなります。
手術して血管を縛れる成功率は99%程度です。
高位結紮術は保険診療です。3つの方法の中では費用は最も低く、3割負担の方で初診から経過観察まで含めて2〜4万円程度です。
しかしながら、高位結紮術だけで静脈瘤が縮小・消失する可能性はストリッピング手術や血管内レーザー治療に比べて極端に低くなってしまいます。高位結紮術だけ行った場合には、静脈瘤は高頻度に再発します。したがって広範囲の硬化療法などを組み合わせることになります。
逆に高位結紮が一番適している場合もあります。たとえば小伏在静脈が原因の場合、しかもその小伏在静脈が曲がりくねってしまっている場合。そうした場合には一番適した方法です。

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